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  • ■相続手続きの流れ

     人が亡くなって相続する際、相続人は以下の期間内に手続きするべきことがあります。


     以上のように、相続が起こったときには、非常にたくさんの手続きが必要です。ただ、すべてのケースですべての手続きが必要なわけではありません。
     以下、ひとつずつ説明していきますので、ご自分に必要な手続きを確認しましょう!!

    3か月以内に必要な相続手続き

    ■金融機関に連絡する

     預貯金の名義人が死亡したという情報は、金融機関に自動的に入るわけではありません。したがって相続人が連絡をしないかぎり、金融機関は預貯金の出し入れを止めたりはしないのです。

     そうなると、他の相続人が名義人の銀行カードで、勝手に預貯金を出して使ってしまったり隠してしまったりするおそれもあります。。


     そこで、死亡したら、すぐに各金融機関に連絡して、預貯金取引を止めてもらう必要があります。これを「口座の凍結」といいます。

     法律の面からみると、家族信託の根拠となる信託法は特別法なので、法に触れないかぎり、民法に優先してさまざまな契約を取り決めておくことが可能、それぞれの事情や条件を汲んだ「財産を引き継ぐしくみ」が作れるのです。


    ・葬儀費用を個人の口座からまかなうことは可能

     銀行口座が凍結されると預金が引き出せなくなりますが、相続法が改正され、2019年7月1日から施行されたことにより、死亡後に預金を銀行から引き出すことも可能になりました。
     法律の改正によって、葬儀費用を捻出する方法の選択肢が増えたことになります。


     もっとも、銀行口座から預金を引き出すときの上限金額は、法定相続分の3分の1までと決まっており、また1つの金融機関につき150万円までしか引き出すことはできません。


     同じ金融機関に複数の口座があった場合、上限は150万円ですが、A銀行で150万円、B銀行で50万円というように複数の金融機関であれば、合計で150万円を越えて引き出すことは可能です。


     150万円引き出すことができれば、葬儀費用の大部分はまかなえるはずですので、葬儀費用の支払いに困った際はこの制度を利用するのが良いでしょう。


     必要な書類としては、基本的には以下になります。

  • 本人確認書類
  • 名義人の戸籍謄本または全部事項証明書
  • 相続人全員の戸籍謄本または全部事項証明書
  • 預金の払い戻しを受ける人の印鑑証明書が必要です。

  •  必要書類は銀行によって異なる場合があるので、払い戻しを受ける銀行に確認をすることをおすすめします。

     遠方に相続人がいる場合、書類を取り寄せる必要がありますから、葬儀費用の支払いに間に合うよう、早めに書類を依頼することも大切です。


    ■生命保険金を受けとる

     死亡者が生命保険に加入していた場合、相続人が受取人であれば。死亡によって生命保険金がその相続人に支払われるのが原則です。

     そこで、保険金受取人は生命保険会社に対し、生命保険金の受取申請をします。


     生命保険金の受取申請の手続きは、各保険会社によって異なるので指示に従いましょう。通常は、定められた書式の保険金請求書を作成し、身分証明書や戸籍謄本(除籍謄本)などを提出することが必要になります。

     なお、保険金は相続財産とはならず、相続税の取り扱いも特別です。


    ■健康保険、遺族年金の手続き

     被相続人が健康保険や年金に加入していた場合は、健康保険から給付金(埋葬料、埋葬費)を受けとることができたり、遺族年金が支給されたりすることがあります。

     こうした手続きも申請が必要なので、権利者は健康保険組合や市町村、年金事務所などに連絡をする必要があります。申請書に必要事項を記入して提出し、必要な手続きを行いましょう。


    ・遺言書がある場合の手続き

     遺言書があると、基本的に遺言書の内容にしたがって遺産を分けることになります。

     なお遺言書は、被相続人が使っていた机の引き出しやタンス、棚の中などに保管されていることが多いです。


     また、令和2年(2020年)7月10日から、法務局において自筆証書遺言書を保管する制度が始まります。法務局に保管された場合には、相続開始後に遺言書の証明書の交付請求・遺言書の閲覧請求が可能です。


     家や事業所に金庫がある場合、銀行に貸金庫がある場合などには、その中に保管されていることもあります。また、遺言者が公正証書遺言をしていた場合には、公証役場に行って申請をすると、遺言書の検索を行うことができます。これにより、確実に公正証書遺言を見つけることができるので、是非とも利用しましょう。


    ■遺言書の検認手続き

     遺言書が見つかった場合には、勝手に開封してはいけません

     自筆証書遺言か秘密証書遺言を発見した場合には、まずは「検認」という手続きを受ける必要があります。

     なお、法務局で保管されている遺言書は検認不要です。


     検認とは、家庭裁判所で遺言書の現状や存在を確認してもらうための手続きです。

     検認の目的は遺言書の現状を保全することによって、遺言書の変造や隠匿、毀損などを防ぐことです。封入されている遺言書の場合には、検認せずに勝手に開封すると、5万円以下の過料の制裁が科されるおそれがありますし、封入されていない遺言書の場合でも、検認が必要です。


     検認を申し立てるときには、被相続人の最終の住所地の家庭裁判所において、検認申立をします。

     検認を申し立てると、家庭裁判所から各相続人らに対し、検認の期日の連絡が来ます。当日家庭裁判所に行くと、出席した相続人の目の前で遺言書の開封と確認が行われます。これが終わると、検認済証明書を発行してもらい、遺言書に添付してもらうことができます。


     これで検認の手続きは終了します。

     自筆証書遺言や秘密証書遺言は、検認済証明書がついていないと不動産などの名義書換もできないので、きちんと検認を受ける必要があります。


    ■相続人調査

     遺言書がない場合には、相続人が自分達で話しあって遺産分割の方法を決めないといけません。この話し合いのことを、遺産分割協議と言います。


     遺産分割協議には相続人全員が参加しないといけないので、協議を行う前提として、相続人を調査する必要があります。この調査のことを、相続人調査と言います。


     相続人調査をするときには、被相続人が生まれてから亡くなるまでのすべての戸籍謄本や除籍謄本、改正原戸籍謄本を取得して、被相続人の親族関係を確認します。

     たとえば、被相続人が再婚していて前妻との間に子どもがいる場合や、被相続人に認知している子どもがいる場合などには、戸籍の調査によってそれらの子どもが判明することがあります。


     また、死後に子どもの方から認知請求をすることもできるので、まだ認知していなかった子どもから死後認知請求が起こされて、相続人が判明することもあります。さらに、遺言によっても子どもの認知をすることができるので、遺言によって子どもの認知が行われていたら、その子どもも法定相続人となります。


    ■相続財産の調査

    ・被相続人の自宅を調べる

     遺産分割協議を始める前に、相続財産を確定する必要もあります。相続財産調査をするときには、被相続人の自宅に保管されている財産関係の資料を探しましょう。たとえば預貯金通帳や証書、出資金の証書や不動産の権利証(登記識別情報通知書)などが保管されていないか探します。


    ・ネット取引を調べる

     最近では、ネット銀行やネット証券で取引をしている人も多いので、パソコンやスマホを開けて、そのような取引の痕跡がないかを調べることも大切です。たとえば証券会社からのメールなどが届いていたら、相続人の資格によって、残高や利用履歴を問い合わせることができます。


    ・郵便物を調べる

     また、郵便物を確認することも役に立ちます。たとえば銀行や証券会社などから書類が届くことも多いですし、不動産を所有していたら固定資産税の納付書が届きます。銀行預貯金口座の通帳が届いたら、その内容を見てみましょう。引き落としや入金の履歴から、財産や借金が判明することもあります。たとえば、毎月クレジットカードの引き落としがある場合には、借金があるかもしれないので、問合せをしましょう。


    ・名寄せ帳を確認する

     不動産の調査のためには、役所で名寄せ帳を見せてもらう方法も有効です。名寄せ帳とは、固定資産課税台帳のことで、各市町村における固定資産課税管理のための資料です。

     名寄せ帳には、住民の不動産がすべて掲載されているので、これを見ると、被相続人がその市町村で所有している不動産を一覧で確認することができて便利です。名寄せ帳を取り寄せたい場合には、相続人が役所に行って、相続人であることを証明して申請すれば、取得出来ます。


    ・残高証明書を取得する

     預貯金などが判明した場合、預貯金の残高や履歴を取得したいケースがあります。そのような場合には、金融機関に申請をして、残高証明書を出してもらうことができます。遺産相続の対象になるのは相続開始時に存在した預貯金なので、基本的には相続開始時の残高を出してもらうと良いでしょう。

     また、ゆうちょ銀行の場合には、過去に提出された定額貯金の払い出し申請書の写しなどを出してもらうことも可能です。これによって、いつどのような方法で預貯金の払い戻しが行われたのかがわかり、遺産分割の参考にできるケースがあります。たとえば、誰の筆跡で払い出し請求が行われたかなどがわかります。


    ■遺産分割協議の開始

     以上のように、相続人調査と相続財産の調査が終わったら、遺産分割協議を始めます。遺産分割協議は、すべての相続人が集まって遺産分割の方法を話しあわないといけません。

     一人でも漏れていると、遺産分割協議が無効になってしまうので、疎遠な人や新たに発見された前妻の子ども、認知された子どもなどにも連絡をして、協議に参加してもらう必要があります。


     相続人の中に未成年がいて、その親も一緒に相続人になっているようなケースでは、未成年の特別代理人を選任する必要があります。相続人の中に認知症の人などがいて、自分で遺産分割協議を進めるだけの判断能力が無い場合には、成年後見の申立をして、後見人をつけてもらう必要があります。

     また、海外在住の相続人がいる場合もあります。その場合は手続きが特殊になります。→海外在住の相続人がいる場合はこちら


     このようにして、相続人が全員集まってすべての遺産の内容を明らかにして、誰がどの遺産を相続するのかを決めていきます。


     ただし、遺産分割協議は、必ずしも1つの場所に集まって行う必要はありません。

     兄弟などが近くに住んでいて、簡単に集まることができるなら、たとえば被相続人が居住していた実家などで遺産分割協議が行われることが多いです。

     これに対し、相続人が多数で遠方に居住している人がいるケースなどでは、実際に集まって遺産分割協議を進めるのが難しいことも多いので、そのようなケースでは、メールや手紙、電話などの方法を使って協議を進めてもかまいません。


     それでも、遺産分割協議が整ったときに作成する遺産分割協議書は、必ず全員が署名押印する必要があります。(海外在住の相続人が含まれている場合は特別な方法となります)。


    ・遺産分割調停、審判

     相続人同士が集まって遺産分割協議を進めても、意見が合わないことがあります。また、相続人のうち一部が遺産分割協議に参加しようとしないケースもあるでしょう。このような場合には、協議によって遺産分割方法を決めることができません。そこで、家庭裁判所において遺産分割調停を申し立てる必要があります。


     遺産分割調停には、相続人全員が参加する必要があります。

     調停なので申立人と相手方がありますが、全員がどちらかに入っていれば良いのであり、自分と同じ考えの人が複数で申立人となり、考えの合わない相続人を相手が他にすると良いでしょう。管轄の裁判所は、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所です。


     遺産分割調停では、家庭裁判所の調停委員が間に入って遺産分割の話し合いをすすめてくれます。これによって全員が遺産分割方法について了承できれば、その内容で遺産分割協議が成立して、調停調書が作成されます。

     調停でも相続人の意見がまとまらない場合には、遺産分割調停は不成立になって遺産分割審判となります。


     遺産分割審判では、各相続人が自分の希望する遺産分割方法を主張して、立証資料を提出して、審判官(裁判官)に見てもらいます。最終的に裁判官がこれらの主張と立証資料を見て、妥当な遺産分割方法を決定します。審判で決まった内容は、審判書にまとめられて、各相続人に送付されます。

     調停調書や審判書は、不動産の名義書き換えなどの遺産分割の手続きの際に必要になります。


    ■相続放棄、限定承認

     借金や負債も相続の対象になるので注意が必要です。

     遺産相続が起こったとき、遺産の中に借金やその他の負債が含まれているケースがあります。相続に対象になるものは、現金預貯金や不動産などのプラスの資産であるイメージが強いですが、借金も相続の対象になります。


     たとえば、被相続人がサラ金やクレジットカードで借金をしていた場合や、被相続人が事業のために高額な事業ローンを組んでいた場合などには、その借金も相続人に引き継がれます。被相続人が借家に住んでいて、未払家賃があるケースなどでも同様です。


     また、損害賠償債務も相続の対象です。そこで、被相続人が交通事故を起こして賠償金を支払わないまま死亡したようなケースでは、損害賠償義務が相続人に引き継がれて、相続人が損害賠償をしなければなりません。被相続人が任意保険に加入していなかった場合には、大変な負担になる可能性があります。


     被相続人の借金や負債を相続したくない場合には、相続人は相続放棄や限定承認という手続きをとる必要があります。


     相続放棄とは、プラスの資産もマイナスの負債も含めて、遺産の一切合切を相続しないことです。相続放棄をすると、預貯金などのプラスの財産をもらうこともできませんが、借金や負債を相続することも一切無くなります。


     限定承認とは、遺産の内容を調べて、債権者や受遺者に必要な支払をして、残金があったら相続人が相続出来る手続きです。差引の結果、借金や負債が上回っていてあまりが発生しない場合には、相続は起こりません。

     そこで、限定承認をした場合にも、相続人は借金や負債を相続せずに済みます。ただし、限定承認するときには、相続人が全員でしないといけないことや、時間がかかることなどのデメリットもあります。


    ・相続放棄、限定承認の方法と期限

     相続放棄や限定承認をするときには、家庭裁判所で相続放棄の申述、限定承認の申述、という手続きをしなければなりません。

     申請先の家庭裁判所は、被相続人の最終の住所があった地域を管轄する家庭裁判所で、申請の際には被相続人の戸籍謄本や住民票の除票、相続人の戸籍謄本などの書類が必要です。相続放棄(限定承認)の申述書を作成して必要書類と一緒に提出したら、手続きができて、借金支払いをしなくて良くなります。


    ・相続放棄や限定承認には期限があるので注意が必要

     具体的には「自分のために相続があったと知ったときから3か月以内」とされています。この期間のことを、「熟慮期間」と言います。


     熟慮期間は、被相続人が死亡したことと、遺産の中に借金が含まれていたことを知ったときから3か月以内、と理解されています。

     ただし、遺産の中に借金があると知らなかったとしても、郵便物などを注意して確認していたら容易に借金の存在を知ることとができたようなケースでは、死亡したことを知ってから3か月経つと、相続放棄や限定承認ができなくなってしまうおそれがあるので、注意が必要です。


    ・熟慮期間を延ばしてもらう方法

     また、熟慮期間内に対応を決められない場合には、熟慮期間伸長の申立をして、熟慮期間を延ばしてもらうことも可能です。熟慮期間伸長の申立は、熟慮期間内に行う必要があり、熟慮期間が過ぎてから申請をしても延長は認められません。


     伸長の申立によって伸ばされる期間はケースバイケースですが、伸長が認められるためには、遺産の内容が非常に複雑とか、自分が外国に住んでいて遺産内容の調査が困難であるなど、伸長が必要な理由が必要です。


     どのようなケースでも期間を延ばしてもらえるわけではないので、遺産の中に借金があったら、基本的には相続放棄するのか限定承認するのか単純承認するのか、早めに態度を決定する必要があります。

    4か月以内に必要な相続手続き

    ■所得税の準確定申告

     遺産相続をしたとき、所得税の準確定申告という手続きが必要になるケースがあります。所得税の準確定申告とは、被相続人が所得税の申告義務を負っていたときに、相続人が代わりに確定申告を行うことです。


     典型的なケースは、被相続人が事業を行っていた場合です。この場合、被相続人は自分で確定申告をしなければならなかったのですが、事業年度の途中で死亡してしまうと、自分では確定申告することができなくなります。


     そこで、代わりに相続人が準確定申告をします。その他、被相続人が給与所得者で2000万円以上の収入があったケースや、医療費の控除などを受けたい場合にも、準確定申告をする必要があります。

     準確定申告をする場合、申告だけではなく納税の義務もあるので、課税された所得税は、相続人が支払う必要があります。

     そして、準確定申告には期限があるので注意が必要です。通常の確定申告は、事業年度の翌年の2月16日から3月15日までですが、準確定申告の場合には、死亡者の死亡後4か月以内となっています。これを越えると延滞税などがかかってくるおそれがあります。


    10か月以内に必要な相続手続き

     遺産相続によって、相続税が発生することがあります。下記であらためて説明しますが、基礎控除を越える評価額の遺産があると、相続税の申告と納税が必要になります。この相続税の申告と納税には、相続開始後10か月以内という期限があります。

     そのためには相続手続きを進めて、相続人の相続額(評価額)を判明させておくことが必要です。

     遺言書がある場合には、遺言書に従って遺産の相続手続きをしますが、そうでない場合は、遺産分割協議書の作成(遺産分割調停による調停調書、あるいは遺産分割審判の審判書)が必要です。


     遺産分割協議はすんなりと解決できないことが多いのですが、その場合の申告方法についても、下記であらためて説明します。


    ■遺産分割協議書作成

     遺産分割協議書とは、相続人らが話しあって決めた遺産分割の方法をまとめた書類です。相続人らが集まって遺産分割協議を行い、無事に協議が整ったら遺産分割協議書を作成しないといけません。

     遺産分割協議書は、相続人同士の契約書のような役割もありますし、遺産分割が整っていることを周囲に示す証明書のような役割も持つ、重要な書類です。


    ・遺産分割協議書の作成方法

     遺産分割協議書を作成するときには、どの相続人がどの遺産を取得するのか、具体的に書き入れていくことが必要です。遺産の特定を間違えると意味が無くなってしまうので、正確に記入しましょう。


     たとえば、預貯金なら、金融機関名と支店名、預金の種類(定期預金か普通預金かなど)、口座番号まで書かなければなりません。不動産なら、不動産の全部事項証明書の表題部をそのまま書き写します。全部事項証明書の地番や家屋番号などの表示は、住所表示とは異なるので、注意が必要です。

     このように、誰がどの遺産を相続するのかを書き入れたら、相続人全員が署名押印することが必要です(海外在住の相続人がいる場合には、特殊な方法となります)。


     一人でも欠けていたら遺産分割協議書は無効になります。押印に使う印鑑について、法律上の制限はないので、理屈としてはどのような印鑑でも良い、ということになります。


     しかし、不動産の相続登記をするときには、実印による押印が求められますし、相続人全員の印鑑登録証明書の提出も求められるので、遺産分割協議書の作成時には、はじめから実印で押印し、全員分の印鑑登録証明書を添付しておくと便利です。


     遺産分割協議書が複数枚にわたる場合には、ページとページの間に契印しなければなりませんが、このときに使う印鑑は、署名押印に使ったものと同じである必要があります。署名押印に実印を使った場合には、契印にも実印を使います。


    ・遺産分割方法の通数と保管方法

     遺産分割協議書は、相続人全員分を作成して、各相続人が1通ずつ保管すると良いです。このようにすると、各相続人が、その遺産分割協議書を利用して、自分に必要な相続手続きを進めていくことが出来ます。


    ■各種の相続手続きを進める

     相続手続きというのは、預貯金の払い戻しや株式名義の書き換え、投資信託の払い戻しや名義書換、不動産の名義書換、骨董品や美術品、貴金属の受取やゴルフ会員権の解約出金、名義書換などのことです。

     たとえば預貯金の払い戻しを受けたい場合には、金融機関に遺産分割協議書を持っていって自分がその相続人であることを証明できたら、預貯金の払い戻しを受けることができます。


     株式の名義書換の場合には、上場会社の株式の場合には、取引をしている証券会社や証券代行業者に連絡をして、名義書換の申請をすることができます。未上場株式の場合には、対象の会社に直接連絡をして、遺産分割協議書と自分が相続人であることをしめす資料(戸籍謄本など)を示すことにより、名義書換を行うことができます。被相続人の骨董品や美術品、貴金属などの動産は、適宜引き取ると良いでしょう。


     これらの相続手続きについては、特に期間は設けられていませんが、預貯金などの場合には、一応10年の時効があります。実際には10年経っても払い戻しに応じてくれることが多いですが、長期間放置されている預貯金が増えて無駄になっていることが問題になり、権利者不明の資産として国が没収する案なども出てきているので、注意が必要です。

     

     預貯金や証券などの権利を承継したら、早めに相続手続きを行いましょう。


    ・不動産の相続手続きに期限はないが

     相続手続きでは、不動産の名義書換が重要です。不動産の名義書換とは、被相続人が土地や建物などの不動産を所有していた場合に、その名義を相続人名義に書き換えることです。遺言書や遺産分割協議書があると、法務局に登記申請をして、被相続人名義から相続人名義に書き換えることが可能です。

     この不動産の名義書換(相続登記)には、期限はありません。1年後や10年後どころか、30年後や50年後でも名義書換ができます。しかも、放置していたからと言って罰則もありません。そこで、相続登記をせずに放置する人もいます。


     しかし、不動産を相続したのに名義書換をしないと、さまざまなトラブルの原因になります。まず、他の相続人や第三者が勝手に自分が権利者であると言って、不動産を他人に売却したり、賃貸に出したりするおそれがあります。


     また、他の相続人が勝手に相続人の共有名義で登記してしまうおそれもあります。さらに、自分が死亡して子ども(名義人の孫)が相続したときには、孫が相続登記する手続きが非常に複雑で大変になります。


     このように、不動産の相続登記をしないで放置すると、一見して誰が不動産の所有者であるかがわからないことからいろいろな問題が起こるので、たとえ期限がないとしても、早めに手続きすることが重要です。


    ■相続税申告と納付手続き

     遺産相続をすると、相続税が発生することがあります。相続税には基礎控除があるので、基礎控除までなら相続税は不要ですが、それを越える評価額の遺産があると、相続税の申告と納税が必要になります。


     相続税の申告と納税には、相続開始後10か月以内という期限があります。申告だけではなく、納税も含めて10か月以内に行わないといけません。これを過ぎると、利子税という延滞税がかかってきて、税金がどんどん高額になってしまうので、注意が必要です。


    ・遺産分割協議が未了の場合の相続税申告方法

     相続税は、相続をした人が相続した分に応じて負担すべきものなので、遺産分割協議を終えていないと、正確な負担分を計算することが難しいです。

     しかし、遺産分割協議はすんなりと解決できないことが多く、1年以上かかることは普通ですし、場合によっては2年やそれ以上かかるケースもあります。このような場合、遺産分割協議が終わるまで、相続税の申告と納税を待ってもらえるのかが問題です。


     ところが相続税の申告と納税の期間は10か月で固定されています。

     遺産分割協議が終わっていなくても、相続開始後10か月以内に申告納税が必要ですし、それを越えるとやはり延滞税が発生します。


     遺産協議が終わる前に申告納税を行う場合には、とりあえず法定相続人が法定相続分に応じて申告納税をすることが多いです。

     後で遺産分割協議がまとまったときには、その内容に応じて更正請求をすると、遺産分割協議書でまとまったとおりの割合で相続税を再計算できます。以前の申告の際に払いすぎていた相続人は払いすぎた分の還付を受けられますし、足りなかった相続人は追加で支払うことになります。


     また、相続税を支払えない場合には、遺産そのものによって支払う物納を利用したり、分割払いで相続税を支払う分納という手続きを利用したりすることができます。


    ・相続税軽減の手続き

     相続税には、いろいろな軽減措置が設けられています。たとえば、配偶者であれば法定相続分または1億6千万までの相続分に対しては相続税がかかりません。遺産が小規模な宅地の場合には、小規模宅地の特例として、土地の評価額を50%〜80%軽減してもらうことができます。農地の場合にも相続税軽減措置があります。


     ただし、これらの相続税軽減を受けるためには期限があります。具体的には、まずは相続税の申告期限内(相続開始後10か月以内)に相続税の申告をする必要があります。そして、このとき、「申告期限後3年以内の分割見込書」という書類を作成して一緒に提出します。

     申告期限後3年以内の分割見込み書とは、相続税の申告である10か月から起算して3年以内に遺産分割協議ができる見込みがあるという書類です。


     これを過ぎると、各種の相続税軽減措置を受けることができなくなって、相続税が高額になるおそれがあるので、注意が必要です。


    1年以内に必要な相続手続き

    ■遺留分減殺請求の期限

     遺産相続の場面では、遺留分減殺請求という手続きが必要になるケースがあります。遺留分減殺請求とは、遺留分を侵害された法定相続人が、遺留分の取り戻しを請求するための手続きです。兄弟姉妹以外の法定相続人には、遺留分が認められます。


     遺留分とは、法定相続人に認められる最低限の遺産の取得分のことです。遺言や死因贈与などによって、最低限の取得分である遺留分を侵害されたら、法定相続人は、遺留分の侵害者に対し、遺留分の返還を請求することができます。この返還請求の意思表示のことを、遺留分減殺請求と言います。


     遺留分減殺請求をすることができるのは、被相続人の死亡と遺留分侵害の事実を知ってから1年以内です。被相続人の死亡から10年が経った場合には、たとえ遺言や死因贈与などによる遺留分侵害の事実を知らなくても、遺留分の請求ができなくなります。


     遺留分減殺請求を行うときには、通常は遺留分を侵害している他の相続人や受遺者に対して、内容証明郵便を利用して遺留分減殺通知書を送付します。相手に連絡が取れない場合には、家庭裁判所で遺留分減殺調停を起こしてもかまいません。調停でも話ができない場合には、遺留分限再請求訴訟を起こすことになります。期限を過ぎると、これらの調停や訴訟なども一切行うことができなくなるので、遺留分を侵害されたら、まずは早めに遺留分減殺請求の通知書をおくるようにしましょう。


    3年以内に必要な相続手続き

    ■配偶者相続税軽減の手続き

     先に説明したように、相続税の申告期限内(10か月以内)に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付して相続税の申告書を提出し、納税した場合、3年以内に遺産分割ができれば、配偶者控除が受けられます。

     具体的には、相続税申告期限後3年以内に、実際に遺産分割協議ができたら、その後4か月以内に税務署に対し「更正請求」という手続きをすることで、相続税の軽減措置を受けることができます。

    相続手続きは当事務所にご相談ください

    ■期限があるものも多いので要注意

     以上のように、相続が起こったときには、非常にたくさんの手続きが必要です。

     ただ、すべてのケースですべての手続きが必要なわけではありません。たとえば遺言書がないなら検認は不要ですし、遺産に借金がなければ相続放棄や限定承認は不要です。被相続人が事業者でなければ通常準確定申告は不要ですし、遺産の評価額が基礎控除以内なら相続税の申告納税は不要です。


     注意しなくてはいけないのは期限のある手続きです。相続放棄や準確定申告、相続税申告納税や遺留分減殺請求などをするケースでは、期限を過ぎると手続きができなくなったりペナルティを科されたりするので、早めに手続きしなければなりません。

     不動産を相続したら、期限はなくても早めに名義書換を済ませることが大切です。


     このように、相続の手続きは複雑で面倒なことが多いので、自分で全てを済ませるのが困難なケースがあります。そのような場合、相続問題に強い専門家に相談すると、頼りになります。専門家であれば、適切な相続手続きの方法をアドバイスしてくれますし、司法書士や税理士と提携していることも多いので、ワンストップですべての遺産問題を解決できます。


     相続についてお困りの方、当事務所にお気軽にご相談ください。


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